免疫力低下とカビ被害の関係性とは？

1. カビによるアレルギー反応とは？

私たちの生活環境には、目に見えないカビの胞子が無数に漂っています。特に湿度の高い日本では、カビの繁殖が活発であり、アレルギー体質の人にとっては大きな脅威となります。アレルギー反応とは、本来無害な物質に対して体の免疫システムが過剰に反応する現象であり、カビもその引き金となることがあります。

カビによるアレルギーの代表的な症状には、くしゃみ、鼻水、目のかゆみといった典型的なアレルギー性鼻炎があり、さらに重症化すると咳や喘息などの呼吸器症状を引き起こすこともあります。特にアスペルギルスという種類のカビは、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症（ABPA）など、より深刻な症状をもたらす可能性があります。

カビの胞子を吸い込むことで、体内の免疫細胞が異物と認識し、ヒスタミンなどの化学物質を放出します。これがアレルギー反応の発症メカニズムであり、体調や環境によって症状の重さが変わるため、定期的な医師の診断と生活環境の改善が必要不可欠です。

2. 真菌感染症の種類とその影響

カビは感染症を引き起こすこともあり、「真菌感染症」と呼ばれています。真菌感染症には、皮膚の表面で起こる表在性のものから、血液や内臓にまで及ぶ深在性のものまでさまざまな種類があります。健康な人であれば軽い皮膚のかゆみや湿疹で済むことが多いですが、免疫力が低下している人にとっては命に関わることもあります。

代表的な真菌感染症のひとつに「肺真菌症」があります。これはアスペルギルス属のカビを吸い込むことにより、肺に炎症を起こす病気です。特に高齢者やがん治療中の人、臓器移植を受けた人など免疫力が落ちている場合に発症しやすく、発熱、咳、呼吸困難といった症状が見られます。場合によっては、肺の内部に膿がたまり、重篤な状態に陥ることもあります。

さらに深刻なのが「深在性真菌症」です。これは、真菌が血液や臓器など体の奥深くにまで侵入し、全身に感染を広げるものです。発見が難しいため、診断の遅れが致命的になることも少なくありません。発症リスクを高める要因には、長期間の抗生物質の使用や入院、人工呼吸器の装着などがあり、こうした状況下ではカビの管理がより重要になります。

3. カビと呼吸器疾患の関係性

カビが原因となる呼吸器疾患は、近年注目されている健康リスクのひとつです。呼吸器系は空気と直接接しているため、空気中のカビ胞子を吸い込むことで炎症が起きやすくなります。特に、アレルギー体質の人や慢性疾患を持つ人にとっては、カビによる影響は深刻です。

カビにより引き起こされる呼吸器疾患として最も一般的なのが「喘息」や「慢性気管支炎」です。これらは気道に慢性的な炎症が起こる病気であり、カビの胞子がそれを刺激することで症状が悪化します。特に梅雨時や秋など湿度が高くなる時期は、カビの繁殖が活発になり、喘息の発作や気管支の炎症が起きやすくなります。

もう一つ重要な疾患が「過敏性肺炎」と呼ばれるものです。これは、カビを含む有機物質に繰り返しさらされることで、肺にアレルギー反応が起こる病気です。症状としては、発熱、咳、息切れなどがあり、長期間にわたって曝露されることで肺に線維化（固くなる変化）が生じ、呼吸機能が低下する恐れもあります。

アスペルギルス症との違いは、アスペルギルス症がカビそのものによる感染であるのに対し、過敏性肺炎はアレルギー反応による炎症であるという点です。両者とも呼吸器への影響は深刻であり、早期の診断とカビの除去が重要です。

4. 免疫力低下とカビ被害のリスク

免疫力が低下している人にとって、カビは特に危険な存在です。普段は問題とならないレベルのカビでも、免疫の働きが弱っていると深刻な感染症を引き起こすことがあります。これは、カビの胞子が体内に侵入した際に、正常な免疫システムであれば排除できるものが、免疫抑制状態では繁殖してしまうためです。

たとえば、がん治療中の人、HIV陽性者、臓器移植後の患者、高齢者、糖尿病などの慢性疾患を抱える人などは、免疫機能が低下しやすいとされています。こうした人々がカビに曝露されると、真菌感染症を発症するリスクが高まります。重症化すると肺だけでなく脳や心臓にまで感染が及ぶこともあり、命に関わるケースも報告されています。

また、日常生活の中でも免疫力が落ちるタイミングはあります。たとえば、過労やストレス、不規則な生活、栄養の偏りなどが続くと免疫力は徐々に低下していきます。このような状態では、カビに対する抵抗力も弱まり、アレルギー症状が悪化したり、呼吸器系に炎症を起こしやすくなります。

だからこそ、免疫力の低下を感じたらまずは生活環境を見直し、カビの発生を抑える努力が必要です。定期的な掃除や換気、湿度管理、専門業者によるカビ対策が大切なステップとなります。

5. アスペルギルスによる院内感染の実態

アスペルギルスは、特に医療機関における院内感染の原因として注目されています。病院内では、建物の老朽化や空調設備、建設工事によるほこりの飛散などが原因でカビの胞子が広がりやすく、免疫力が低下している患者が多いため感染リスクが高まります。

実際に、日本国内外でアスペルギルスによる院内感染が多数報告されており、手術後の感染や集中治療室での重篤な真菌症などが問題となっています。特に、白血病やがんの治療を受けている患者、臓器移植後の免疫抑制状態の患者では、わずかな感染でも致命的な結果を招くことがあります。

病院では、感染予防のために高性能なHEPAフィルターの設置や陰圧室の使用、建設作業中の防塵対策、空調設備の定期清掃などが求められています。また、医療従事者に対する感染対策教育も重要であり、少しの油断が患者の命に関わる可能性があることから、綿密な管理体制が必要です。

このように、アスペルギルス症の予防には、施設全体の空気環境の管理が不可欠です。入院中の患者本人やその家族も、マスクの着用や面会制限への理解を深めることが大切です。

6. カビ対策の基本と予防方法

カビを完全にゼロにすることは不可能ですが、発生と繁殖を防ぐことで健康リスクを大幅に下げることができます。基本的な対策としては、室内の湿度を50％以下に保つこと、空気の流れをよくすること、そして栄養源となるホコリや汚れをためないことが重要です。

まず、浴室やキッチンなど湿気がこもりやすい場所は、毎日換気を行い、使用後は水気をふき取るようにしましょう。押し入れやクローゼットなどの収納スペースも、定期的に開けて空気を入れ替えることが大切です。また、家具を壁から数センチ離して配置することで、空気の通り道を確保し、結露やカビの発生を防ぎます。

さらに効果的なのが、専門業者によるカビ除去サービスの利用です。市販の除カビ剤では表面のカビしか取り除けない場合が多く、素材の内部にまで浸透したカビを完全に除去するのは困難です。プロの業者であれば、専用の薬剤と設備を使って素材を傷つけずにカビを根こそぎ退治し、再発防止のための処理も行ってくれます。

特にアレルギーや呼吸器疾患を持つ人、高齢者や子どもがいる家庭では、定期的なプロのチェックと除去作業が健康を守るための最良の方法といえるでしょう。